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増補改訂版 社会的企業が拓く市民的公共性の新次元

時潮社学術書・専門書経済サ行増補改訂版 社会的企業が拓く市民的公共性の新次元
増補改訂版 社会的企業が拓く市民的公共性の新次元
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粕谷 信次 【著】

「100年に1度の金融・経済危機」に逢着し、本書テーマの「もう一つの構造改革」のありようが、いま、緊急に問われている。これに応えるべく、初版の議論を踏まえ、オルタナティブな社会経済システムのマクロ像を大胆に提起した「序章 社会的・連帯経済体制の可能性」を大幅増補。

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著者
粕谷 信次
出版年月
2009年5月1日
ISBN
978-4-7888-0636-8
販売価格
本体3,800円+税
サイズ
A5判
製本
並製
頁数
408ページ
備考

著者紹介

粕谷信次(かすや・のぶじ)
1940年 東京に生まれる
1969年 東京大学大学院経済学研究科博士課程満期退学
同年、法政大学経済学部助手、以後、同専任講師、同助教授を経て、現在、同教授(日本経済論担当)

 

主要著書
『現代日本帝国主義』現代評論社、1978年(共著)
『社会観の選択―マルクスと現代思想』社会評論社、1987年(共著)
『東アジア工業化ダイナミズム』法政大学出版局、1997年(編著)
「全造船佐伯分会の運動と地域社会」『地域社会と労働組合』日本経済評論社、所収、1995年(戸塚秀夫・兵藤釗編)
『社会的企業が拓く市民的公共性の新次元』時潮社、2006年

書評の紹介

大原社会問題研究所雑誌 2007年7月号
1 日本社会をどのように変革すべきか
2001年誕生の小泉内閣が提起した構造改革論は安倍政権にも基本的に引き継がれ,日本に構造改革の嵐が吹き荒れている。
日本の社会構造,とりわけ政治・経済構造をどう変革すべきか?これは今日の社会科学者に突きつけられた基本的問題である。本書は,この問題に真正面から挑戦し,小泉・安倍構造改革論と異なる「もう一つの構造改革」プランを提示する。
世間には多くの構造改革プランが喧しく論じられている。本書の特徴は,たんなる評論ではなく,著者が社会科学者として実証的・理論的にこの間題にアプローチしている点に見られる。著者は法政大学で日本経済論を担当しているが,本書が提示する構造改革プランは,経済面だけでなく,政治面,社会面,思想面などの社会総体に関わり,経済学,政治学,社会学,社会哲学な・どの学際的な研究に基づいたプランとなっている。しかも,その提案はストレートであり,骨太であり,多くの示唆に富んでいる。日本社会改革論に取り組む研究者のたたき台となりうる好著である。
本書のタイトル「社会的企業が拓く市民的公共性の新次元」は,著者の結論を端的に示している。別言すれば,「ラディカル・デモクラシーと『社会的経済』こそ……21世紀を持続可能な社会とするための新たなバラダイムに他ならない」(120ページ)とするのが著者の主張である。しかし,これだけでは著者の見解を十分に理解することは困難であろう。著者自身による本書解題(「社会的企業が拓く市民的公共性の新次元」,『社会運動』320号,2006年11月号)を参考にして,著者が強調したいポイントを示すことにしよう(以下の引用は同論文から)。

 

2 社会変革の観点から注目すべき社会現象
小泉・安倍構造改革が進行する日本社会のなかで著者がとりわけ注目する現象は,「自ら積極的に声を挙げ,他者に開き,働きかけ,互いに共鳴し合いつつ,アソシエーション(連帯)をつくりだし,その輪を広げ,経済的(「社会的経済」企業の起業)に,政治的に(市民立法,市民行政推進)働きかけていく人びとの主体的登場」である。著者は,「このような人びとが織り成す<個と共同>のダイサミズムの広がりのうちに‥‥‥「新しい歴史主体」の形成と安心・安全な持続可能な21世紀社会構築の可能性を見る」。
著者は,「社会的経済」組織(協同組合,共済組織,NPOなど)や「社会的企業」(どのような法人形態であれ,利潤増大ではなく社会的課題の解決を第一義として活動する企業)を「新しい歴史主体」(新しい社会変革主体)の具体的現われと捉える。著者は,これらの組織の集合を社会の第三セクターとして把握して,「第一セクター(政府セクター)にも第二セクター(営利企業セクター)にも属さない,第三セクターとしての『社会的目的』をもつ非営利の事業経営組織の,先進諸国,途上国,市場移行社会を問わない世界的広がり」のうちに「新しい歴史主体」形成の最も新著な表現を見る。

 

3 「本書を挙げて追求しようとしたもの」は何か
著者自身は,つぎのようにまとめている。
まず現状認識について。「われわれの個は共同のなかにあってはじめて生きることができ,逆に,共同はそのような個によって成り立つ。すなわち,われわれは<個と共同の入れ子関係>の中にある。共同が<国家>として,あるいは<市場>としてシステム化し,そのシステムの論理が暴走するとき,それらは<人間としての個と個の織り成しがつくる共同>に敵対し,その生態系的,社会的持続可能性を脅かす。歴史は今,まさにそのような時ではないのか。」
では,何をなすべきか。「先ず個と個が互いに開き合って<アソシエーションという共同>をつくり,それらをさらに可能な限り開き合って<市民的公共性という共同>をつくる。そして,この市民的公共性を可能な限り国家システムや市場システムに浸透させ,個々の市民の活き活きとした躍動を,そして生態系的,社会的持続可能性を取り戻すことである。」
著者によれば,「この社会革新に最も革新的に挑戦する『社会的経済』企業が『社会的企業』である」。そして,「その革新のダイナミズムを明らかにすること」が本書の課題である。
この課題を果たすうえで,著者がカを注いだのは,つぎの4点である。
①国家的公共性に対置する「市民的公共性」概念の彫琢。とりわけ,ハーパーマスの「コミュニケーション的行為」概念の批判的検討による「市民的公共性」概念の彫琢。
②<個が開き合ってつくる共・協(アソシエーション)>,<それらが,さらに開き合ってつくる市民的公共性>の多様性,重層性の解明。
③この多様性,重層性が織り成すネットワークを以て,国家システムと市場システムに入り込み,これらを市民的<個と共同>のダイナミズムに近づけるありようを探ること。とりわけ,国家システムと市場システムに入り込む活動の場としての<地域・ローカル・コミュニテイ>の解明。
④上記の諸論点を,ナショナルな視点にとどめず,東アジアなどのリージョナルな,さらにはグローバルなディメンジョンから検討すること。

 

4 本書の構成
上記の諸論点は,本書でつぎのように展開されている。
Ⅰ部 社会的企業の促進に向けて「もう一つの構造改革」-持続可能な21世紀社会経済システムと新しい歴史主体像を求めて
1章 グローバリゼーションと「社会的経済」
第1章は本書の総論に当たる。前半ではサード・セクター台頭の現状を分析し,後半ではその歴史的意義を解明する。著者は,「社会的経済」企業の「社会的経済」企業たる所以を市民が創る「新しい公共圏(性)」に見る。そして,サード・セクター台頭の歴史的意義を解明するに当たって,ハーパーマスの理論を乗り越えて,グローカルな,新たな「公共性」の探求を試みる。近代が生み出したハードな<主-客>,<システム-生活社会>,あるいは<システムー-主体>等々の二分法が批判され,<個-アソシエーション-公共性>という関連性にもとづく新たな公共性が追求される。本書の圧巻をなす章である。
2章 「平成長期不況」とは何であったか-小泉・構造改革と「ポスト・小泉」改革へのオルタナティウブ
本章では,新自由主義的イデオロギーが濃厚な「小泉・骨太構造改革」が検討され,そのオルタナティブとして「社会的経済」の促進を基盤にすえた「循環型地域社会」づくりという改革案が提示される。
3章 「複合的地域活性化戦略」-「内発的発展論」と「地域構造論」に学ぶ
本章では,地域活性化戦略における「内発的発展論」と「地域構造論」という二つの対抗する戦略が検討され,「循環型地域社会」をその一翼とする「新しい歴史主体」の形成という観点から両者の統合が試みられる。
4章 日本における「社会的経済」の促進戦略-さまざまな二項対立を超えて「新しい歴史主体」の形成を
本章では,現代日本における「新しい歴史主体」形成の具体像が考察される。「<草の根のアソシエーション>のような<新しい歴史主体>群が,システムに働きかけるべく,現代日本においてどのように出現してきているのか,その具体像を獲得するとともに……その前途に横たわる課題」が考察される。
Ⅱ部 補遺 社会科学の揺らぎと近代西欧パラデイムの転換
Ⅱ部は,本書のテーマをめぐる著者の研究史であり,Ⅰ部の主張を理論的に補強するための補遺となっている。
補遺[1] 経済学の危機はいかにして克服しうるか-「宇野理論」の可能性あるいは社会運動論への道行き
補遺[2] 新しい主体の芽-他者と互いに交響し得る自律的協働体を
補遺[3] 社会科学の揺らぎ-「段階論」の見直しと保守的解釈学の検討

 

 5 残された課題
現代の社会変革主体の解明を目的とする本書は,社会認識のための新しいパラダイムの提示から始まり,その観点からの現状分析と改革プランを展開している。著者の提示する戦略は,「公(公益・官)-私(私益・営利企業)」という二分法を相対化し,これを打ち破る突破口を見出し,この二極の間を市民的公共空間によって押し広げていく」ことであり,「同時並行
して,従来のさまざまな固定観念,固定的二分法……を縦横に乗り越え,新結合による新たな中間領域や新たなフレクシブルな境界領域を創出していくこと」である(本書,200ページ)。
この課題を実現する必要条件として,著者は,「社会的企業」セクターと労働組合運動との連携を挙げている(231ページ)。この論点は,他のサード・セクター論で軽視されがちであるが,非常に重要な論点である。
だが,問題は,「社会的企業」セクターと労働組合運動との連携をいかに実現させるかである。
社会的経済に対しては,つぎのような批判が見られる(詳細は拙著『社会的経済セクターの分析一民間非営利組織の理論と実践』岩波書店,1999年,21-22ページ)。
「労働者の権利は労働法によって守られている。公的セクターと営利企業セクターとの間に第3セクターを形成すると,第3セクター内の労働者は新しい労働市場を形成することになり,法的に無権利状態に置かれかねない。労働組合運動が闘いとった労働条件を低下させかねない。」
小野昌子が述べているように,「雇用労働者と同様の職種に就いて低い活動条件を受け入れるものが増えた場合,その職種(例えば介護労働者)における競争関係から労働条件や市場賃金を引き下げる可能性がある」。粕谷氏もこの問題点を自覚して,このような問題点があるがゆえに労働組合運動との連携が必要だと力説する(本書,229-230ページ)。しかし,この問
題点があるがゆえに労働組合運動との連携が困難であることも事実である。労働組合運動との連携を実現するための説得的な論拠はなにか。そのための理論の展開が,本書の残された課題の一つだと思われる。二分法を乗り超えて,<あいだ>の地平の開拓を重視する粕谷氏は,「伝統的な社会変革主体」と「新しい社会変革主体」との<あいだ>をどのように架橋する
のであろうか。氏にとってはそもそも問題にもならないテーマかもしれないが,「伝統的な社会変革主体」の側からは橋が必要だと思われる。
(粕谷信次著『社会的企業が拓く市民的公共性の新次元一持続可能な経済・社会システムヘの「もう一つの構造改革」』時潮社,2006年11月, 338頁,定価3500円+税)
〈とみざわ・けんじ 聖学院大学大学院教授)

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