難病患者福祉の形成

堀内 啓子【著】
膠原病など難病患者を暖かいまなざしで見つめ続けてきた著者が、難病患者運動の歴史と実践を振り返り、今日の難病対策の問題点を明確にし、今後の難病対策
のあり方について整理し、新たな難病患者福祉形成の必要性を提起する。
・「日本社福祉学会会・学会賞」の査読対象図書に選定(2006年発行図書)
- 著者
- 堀内 啓子
- 出版年月
- 2006年10月31日
- ISBN
- 4-7888-0610-X
- 販売価格
- 本体3,500円+税
- サイズ
- A5判
- 製本
- 上製
- 頁数
- 219ページ
- 備考
著者紹介
堀内 啓子(ほりうち・けいこ)
1974年 現・国立病院機構長崎医療センター附属看護学校卒業
1981年 厚生労働省看護研修研究センター看護教員養成課程修了
2006年 純心大学大学院人間文化研究科博士後期課程修了
現 在 活水女子大学健康生活学部子ども学科専任講師
学術博士(福祉)看護師
専 門 医療福祉、基礎看護学ほか
著 書 『社会保障・社会福祉大事典』(編著)、旬報社、2004年
主論文 「長崎県における特定疾患対策事業の現状とその課題一介護保険サービス非該当の在宅膠原病
患者の生活状況を通して」(純心福祉文化研究 創刊号 2003年)
「障害受容一ある膠原病患者の療養生活史を通して」(人間文化研究第
号 長崎純心大学大学 人
間文化研究科 2004年)
「難病患者の経済的負担要因とその影響-膠原病系疾患患者の事例を通して」(純心福祉文化研
究3号 2005年)ほか
書評の紹介
社会福祉健康 No99 2007年7月
丹念な難病患者福祉史研究
本書は,1972年のスモン発生を契機に策定された『難病対策要綱』以来,30年以上にわたって法制化が欠如している難病患者に焦点を当てている。難病か
らくる生活の困難性に対し,命を護るという人権意識から生まれてきた難病対策への当事者運動に着目し,「患者福祉」への位置づけを試みたものである。
「難病」とは,特定の疾患をさす医学用語ではなく,『難病対策要綱』に定める,①原因不明,治療法未確立であり,かつ後遺症を残すおそれが少なくない疾
病,②経過が慢性にわたり,単に経済的な問題のみならず,介護などに著しく人手を要するために家庭の負担が重く,また精神的にも負担の大きい疾病という条
件を満たす疾病の総称であり,「特定疾患」とも呼ばれる。現在,特定疾患は123疾患あり,うち45疾患は医寮費が公的負担助成の対象となっている。医学
の進歩はあるものの,難病患者は延命による在宅療養期間の延長や高齢化の問題を抱え,患者および家族の生活問題は複雑・多様化している。本研究では,社会
福祉において先行研究の少ない難病患者に視点を置き,難病の歴史における患者運動とそれに追従して形成されていく難病対策とその課題,そして,膠原病系疾
患患者を中
心とする難病患者の生活実態を明らかにすることによって,今日の難病対策の問題点を明確化し,今後の難病対策のあり方について整理し,新たな患者福祉の形
成の必要性について考察を深めている。また,本書は2部構成になっており,第1部は博士論文として評価を受けたものである。
第1部は,大きく2つに分けて論じられている。1つは,難病患者の歴史であり,もう1つは,膠原病患者から見る難病患者福祉への希求である。
「第1章 社会防衛から難病患者福祉への移行」は,戦前からの患者運動にさかのぼりながら,結核患者救済のための日本患者同盟の成立,多くの生活上の困難
を抱えたスモン患者運動の流れ,全国スモンの合結成までを一区分と考えた。特に,難病患者運動に大きな影響を与えたスモン患者運動を丹念に追いながら,他
の難病患者の組織化,全国難病団体連絡協議会の誕生,1972年の『難病対策要綱』策定までをまとめている。
「第2章 難病患者福祉の確立と展開」は,スモン患者運動の活発化,裁判樹争を取り上げ,「恒久対策」「薬事二法」の中で「人間らしく生きる権利」に基づ
く難病対策の必要性を浮き彫りにした。また,スモン患者に限らない難病患者らは,日本患者・家族団体協議会の成立を図り,その後の難病対策に影響を与え,
『難病対策要綱』に基づく患者福祉の充実,拡大が図られていくさまをまとめている。
「第3章 難病患者福祉の再考」では,医療費の全額公費負担制度から患者の一部自己負担制度へ,さらに所得に応じた応益負担制度への切り替えにより,これ
までの直接的な患者福祉サービスが崩れ,患者間の公平性に視点を置いた新たな患者福祉サービスの検討が求められる段階としてまとめている。また,今日の難
病対策の問題点について事例を挙げ,課題を明らかにしている。
「第4章 膠原病系疾患患者の生活の実態」では,著者が難病患者福祉研究への関心を深めたきっかけを与えた膠原病患者に焦点を当てている。ここでは,当事
者による報告や調査結果などを通して,難病患者の抱える不安,苦しみを明らかにし,さらに難病を持ちながら生きる価値について理解を深め,難病患者福祉の
形成の視点を見いだそうと試みている。
第2部では,膠原病患者に焦点を当てた事例研究,膠原病患者の療養生活史をまとめている。こうした当事者の語りを残すことは重要である。
本書は,難病患者福祉について,先行研究が少ない中,丹念に歴史を追い,当事者の語りを重視しながら,難病患者福祉の形成要因として,①患者の生活に視点
をおき,生活保障を法制化すること,②医療と福祉の連携を図り,情報交換ができるシステムづくり,③難病患者団体への支援システムづくりの3点を挙げてい
る点が独創的である。また,巻末の難病歴史年表は,これから難病患者福祉の研究をする者にとって,とても貴重な資料となるであろう。
大妻女子大学人間関係学部准教授 丹野眞紀子