ドイツ医療保険の改革―その論理と保険者機能
ワイマール以来、 世界の医療保険制度をリードしてきたドイツの東西統合以降の変化と現状、 今後の展望について、 豊かな学識を踏まえた分析と丁寧な解説を加え、 いくつかの事例も示した。
- 著者
- 舩橋 光俊【著】
- 出版年月
- 2011年12月15日
- ISBN
- 978-4-7888-0668-9
- 販売価格
- 3,500円+税
- サイズ
- A5判
- 製本
- 上製
- 頁数
- 308ページ
- 備考
著者紹介
舩橋光俊 (ふなばし・みつとし)1969年 東京大学法学部卒業後、 厚生省に勤務。 1995年社会保険大学校長で退職。 翌1995年 社) 国民健康保険中央会にて常務理事、 監事として奉職、 2010年退任。
書評の紹介
『国保新聞』2012年10月20日号
ベストセラーを読む
「ドイツ医療保険の改革」その論理と保険者機能 舩橋 光俊著
本書は、ドイツ医療保険制度のリスク構造調整、診療報酬審査とDRG、疾病管理プログラムの進め方、診療報酬体系など、1990年の再統一後から今日までにおける医療制度の数次におよぶ一連の改革の動向と現状の特徴を分析・解き明かしながら、今後のわが国の医療政策・運営業務のあるべき方向を検討する際の貴重な書である。
医療に関する諸外国の制度の紹介や内容を論じた書物が数多く上梓されているなかで、真正面から医療制度の論理構造を深く掘り下げるとともに具体的な制度運営業務の詳細まで明らかにした労作である。
著者は、厚生省時代にドイツ社会保障制度調査員として滞在したほか、国保中央会に在職中、調査団として5次にわたって訪独して調査研究を深めてきたドイツ医療制度の理論と実務に通暁した研究者である。このため、保険運営の仕組みとして組み込まれたリスク構造調整から、ドイツ独特の「新家庭医制度」「保険者広報」「芸術家社会金庫」など幅広い分野を記した大著でありながら、観念的な記述はみられず詳細なデータ分析と緻密な考察を踏まえた提言が盛り込まれている。
5回の訪独調査のなかで、その2回目(99年)の調査に同行するという幸運に恵まれたことがある。97年改革で保険者である疾病金庫に加入の自由が一部認められ、保険料率をめぐる疾病金庫間の競争から経営の成果による競争へ移ろうとしていた時期である。そこで自営業者の加入に際しての所得捕捉の実態などを調査したのだが、著者の制度改革を支える基盤の論理構造だけではなく、施策の意図と実務との関係、実際に制度設計をする場合の具体的な運営実務・技術的な仕組みまで、データとともに内容を解き明かそうとする姿勢に圧倒されたものである。今後、わが国でも保険者機能のあり方は大きな課題になるだろうが、保険者機能の範囲と具体的な事務処理など保険運営の手法も大いに参考となろう。
健康保険 2012年4月号
ドイツ的方法にみる保険者機能の精緻な分析
わが国の医療保険者、とりわけ、健保組合にとって、ドイツの〝疾病金庫〟は自らの原点ともいうべき存在として強い関心のもとその動向が常に注目されてきた。しかし、われわれが疾病金庫を語るとき、両者を結び付ける、組合方式、企業・職域単位、同類・同質性―といった言葉、概念によって、深層にある社会経済の構造的変化にはあえて目を向けぬまま、表層のいわば文化的所産としての疾病金庫の姿にばかり目を向けてきたきらいがある。
本書は、疾病金庫の構造的変容を語るうえで欠かせない2つの改革―1993年改革と2007年改革―を柱に、ドイツ医療保険制度における疾病金庫の保険者機能について、著者の長年の研究・調査を踏まえ余すところなく細部にわたり紹介した貴重な内容といえる。構成は、1章「ドイツ医療保険のリスク構造調整」、2章「ドイツの診療報酬審査とDRG」、3章「ドイツの疾病管理プログラムの進め方」、4章「医療費の合理的負担を支える診療報酬体系」となっており、これまで主に理論面からの紹介はあったものの、実務面からはその複雑な内容ゆえ、真っ向から必ずしも精緻には解明されてこなかった、リスク構造調整、疾病管理プログラム、診療報酬体系に焦点を当て、〝ドイツ的方法〟による、これら精緻かつ合理的なメカニズムを一つひとつ丁寧に解き明かしている。また、補論では、疾病金庫が取り組んでいる家庭医プログラムや広報、保健事業なども紹介されており、健保組合にとっても一つの参考となるだろう。ここから浮かび上がるのは、医療提供者を含め、医療保険運営当事者との連携のもとで発揮される、重層的な保険者機能である。従来、表層・イメージで捉えられていた疾病金庫とは異なる、今日の疾病金庫の機能・構造への的確なアプローチ、理解へと導く絶好の書といえる。
社会保険旬報 No.2484 1月21日号 27ページに書評掲載
日本と同じく社会保険方式を採用しているドイツの公的医療保険は、わが国の医療保険のあり方の検討にあたっては常に参考にされてきた。本書は、1993年改革と2007年改革というドイツ医療保険の2大改革を中心に、ドイツ医療保険制度の動向をとりあげたものだ。保険運営の仕組みとして、ドイツの医療保険に組み込まれた◇主要なリスク要素の格差に着目した保険者間の財政調整◇統計的手法を活用した診療報酬請求内容の効率的な審査◇慢性疾患の重症化のための標準化された疾病管理◇医療提供の実態コストを適時に反映させる診療報酬体系―について、それぞれの仕組みの考え方と具体的な運用実務を詳述。
併せて、ドイツ独特の「診療報酬の別契約を導入し役割強化を目指す家庭医制度」「制度内容、制度改正、保健事業などの多彩な保険者広報」「独自の財源調達システムを構築した自営芸術家社会保険」も紹介している。
著者は、国民健康保険中央会在職中1997年から2009年まで、5次にわたりドイツの医療保険制度を調査し、毎回報告書を公表するとともに、その時々の制度の仕組みと基盤について考察してきた。弊誌でも1998年、2003年、2007年、2010年に論文として掲載している。
推薦の辞を寄せた元・中医協会長である土田武史・早稲田大学教授は、「新しいリスク構造調整や診療報酬体系については、細部にわたってその仕組みが解き明かされ、他の追随を許さないものがある」と推す。
日本では、政府・与党が社会保障・税一体改革の素案をまとめ、今後本格的な協議が進んでいくことになる。本書で提示するドイツ医療保険の制度改革における論理構造と制度運営の実務の具体的内容は、今後のわが国の医療保険制度の本格的な改革を検討するために必須の基礎的資料になるはずだ。