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労働資本とワーカーズ・コレクティヴ

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労働資本とワーカーズ・コレクティヴ
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樋口 兼次【著】

SOHO・起業家に豊富なアドバイス!

日本における労働者生活協同組合の埋もれた歴史を発掘し、現在の大企業組織に代わるオルタナティブ企業の豊かな展望を示した労作。

  • 2005年1月30日 毎日新聞(全国版)に広告掲載
  • 市民セクター政策機構
    行「社会運動」2月号に広告掲載
  • 中小企業情報化促進協会発行「中小企業と組合」2月号45ページに書評掲載
  • 株式会社出版ニュース社発行「出版ニュース」3月中旬号24ページに掲載
  • 2005年3月29日「週間朝日」ベストブックガイドに広告掲載
  • 労働政策研究・研修機構発行「日本
    労働研究雑誌」8月号74ページに読書ノート掲載
著者
樋口 兼次
出版年月
2005年1月10日
ISBN
4-7888-0501-4
販売価格
本体2,000円+税
サイズ
A5判
製本
並製
頁数
208ページ
備考

著者紹介

樋口 兼次(ひぐち・けんじ)

1943年東京都生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業。政府関係機関勤務の後、拓殖大学教授を経て、現在、白鴎大学経営学部教授。専攻は産業構造論、地域経
済論、中小企業論。

社団法人中小企業研究所所長、小山市工業懇
話会教育部会長。

主な著書に『フィクションとしての消費者利益』(南斗書房)、『まちづくりのシナリオ』(共著・日本経済評論社)、『日本経営史料体系』全10巻(共編
著・三一書房)、『日本のワーカーズ・コレクティブ』(共著・学陽書房)、『現代の労働時間問題』(共編著・お茶の水書房)など多数。

書評の紹介

独立行政法人労働政策研究・研修機構 日本労働研究雑誌 No541 2005年8月号

1998年に特定非営利活動促進法が施行され、いわゆる非営利組織(以下NPOと呼ぶ)による活動が活発になってきた。NPOは、必ずしも利潤最大化を目
的としないという特徴を生かし、とりわけ地域社会における公共財的役割を果たすものとして注目されるようになった。実際、税制上の優遇や対象業務の拡大を
うけNPO法人の認証も増加し、2004年9月末現在で18000件を超えている。

もちろん、NPOは何も現代に、まして法律制定後にはじまったことではない。歴史的には、産業革命当時より今日でいうNPOに類する活動が存在した
ことは、よく知られている。その一類型である(労働者)生活協同組合(ワーカーズ・コレクティヴ。以下WCOと呼ぶ)について、歴史的淵源をたどりながら
紹介したのが本書である。

本書の全体を通じて、著者は労働運動の観点からWCOの役割や盛衰を評価する傾向がある。この点、著者の立場と、21世紀に入った現代において
WCOに求められている役割とが一致するとは限らない。しかし、高齢者や女性のもつ経験や才覚を社会に生かすことが要請される現代にあって、NPOや
WCOという組織のあり方は参考になる。だとすると、本書が提示するWCOの歴史上の位置づけなどに関する賛否は棚上げし、これらの組織がたどった路を事
実として反芻することは決して益なしとはできないだろう。加えて、本書では付章として「現代のワーカーズ・コレクティヴ23例」が紹介されており、これか
らNPOやWCOに参加しようという方々にとって、よい情報源となっており、WCOを概観するには適当な書物だといえる。

本書はWCOの概念を示した第1部、WCOの歴史的歩みをまとめた第2部、現代におけるWCOの諸問題を扱った第3部、前述の付章の4つの部分から
なる。そのうち、歴史的経緯をまとめた第2部では、産業革命期の生産組合を簡単に紹介した後、1920~30年代の労働者生産協同組合の例として測機舎の
盛衰を取り上げている。さらに戦後に入り、復興期の生産合作社の失敗を観察した後、現在まで残る労働者企業組合について解説している。本書は全体を通じて
事例の紹介が中心で、論説や分析に類する箇所は少ない。それゆえ、本評では第2部を中心に紹介したい。

著者によれば、ワーカーズ・コレクティヴは、「働く者が集団を形成して労働と知恵を出し合い、資金を出し合い、資金を出し合い、集団で運営(経営)
する事業体」であり、いわゆる「集団所有」の事業体として位置づけられる。おおまかにいって、労務提供者である労働者が組織の決定権を公式に握り、逆に組
織に労務を提供しない主体には原則として決定権が与えられないというところに特徴がある。ただし、複数の利害関係者がいる以上、意思決定時の合議方法は
ルール化する必要があり、労働者が組織を離脱する際の清算方法などについても特定しなければならない。また、一般的に流動性制約のもとにある労働者自身の
出資に限定して収集される資金には限りがあることなど、WCOにつきものの問題は容易に指摘できる。しかし、第1部ではとくに各論はとりあげておらず、
WCOの定義やWCO運営に関する合理的な基盤については曖昧なまま筆を進行させ、むしろ以下の具体例をとりあげることで、これらの問題点を浮き彫りにす
る手法をとっている。

第2部では明治期から戦後復興までのWCOの活動を概観し、日本におけるWCOの発展を跡付けしている。まず、1896年と1898年に行なわれた
農商務省調査によると、産業組合制定以前に、すでに各地に各種組合が相当数設立されており、しかも2年間に相当数増加していることを指摘する。産業革命と
いう経済発展の礎を築いた時期に、自生的に信用組合や販売組合が設立運営されたことがわかる。とりわけ、群馬県の碓氷社などの製糸販売組合は、製糸業の発
展を阻害する要因であった粗製濫造問題を解決するなど、重要な役割を担ったとされる。その後、1900年に産業組合法が成立し、これらの独立事業者同士の
組合活動に対しては法的根拠が与えられたものの、「組合員自身がその労働力を提供して共同事業のもとで労働し、共同して事業運営を行なう自主管理としての
生産協同組合は、産業組合法制定から第2次世界大戦に至るまで法的規定を与えられることはなかった。

他方信用組合や販売組合と同様に、生産者協同組合も法的根拠が無くとも各地に成立していった。そのうち、著者がまず指摘するのは小作共同経営体であ
る。大正年間に小作争議が急増したことはよく知られているが、その過程で地主と小作の共同経営体が組合を通して成立したことは意外に知られいない。具体的
には、愛知県余土村産業組合を指し、「地主が組合に土地の耕作権を引き渡し、組合員の小作に再貸与する形式で組合管理が開始された」ことを紹介している。
もちろん、小作人による共同経営体も紹介されており、福島県大進農業実行組合が礼に取り上げられている。

次に工業部門での労働者生産協同組合の発展を概観し、労働争議の結果岸和田紡績を退職した職工によって興された自転車生産協同組合などを指摘してい
る。なかでも、1920年設立の測機舎がとくに取あげられ、1943年に軍の要請により株式会社に組織変更するまでの経緯が紹介されている。

測機舎は測量機器の製造販売を手掛ける事業体であるが、その参加者はもともと玉屋商店という合名会社の熟練工だった。玉屋商店は国産測量機器製造の
先駆者として、はやくも1013年には東京天文台に1秒天体経緯儀を納入するなど、実績も積んでいた。ところが、1920年、第一次世界大戦下での労働争
議に際して中堀幾三郎工場長と西川末三次席工場長に対立が生じ、次席工場長が退職するに及んで15名中11名の熟練工が辞職、彼を担いで労務出資の新しい
工場を建設した。これが測機舎の始まりであった。その組織原理は民法組合にのっとりながらも、「(20)世紀初頭までにヨーロッパにおいておおむね確立を
み、今日法制化されている生産者協同組合の原則にほぼ一致」し、「①勤労者に対する門戸解放、②組合員の勤労従事義務、③従事分量配当、④平等議決権、⑤
出資制限、⑥非組合員の雇用制限」を内容とした。ただし、開業にあたり完全に労務出資のみに頼ったわけではない。理事長西川を含む組合員11名より
3000円余の金銭出資を受けたほか、理事長西川の個人信用によって銀行より1万円の借入れを行なっている。

その後測機舎は順調に発展し、1934年には玉屋商店を抜いて日本におけるトップの測量機器メーカーとなった。ただしこの間、創業間もない1920
年には合名会社となり、さらに1943年には株式会社となっている。これにともない、労務出資は廃止され、「労務出資組合員は単なる特殊労務者となっ
た」。これらの組織変更の大きな要因として、著者は「取引量の拡大と信用決済の導入」、「組合員個人の債務弁済能力」の限界を指摘している。また、株式会
社化は、持分払戻し請求権を否認し資本脱落を防ぐ意味もあったとしている。一般にWCOが株式会社化する場合にはとくに平等原則が空文化し、、労働者によ
る自主決議権が希薄化するとされるが、著者は、結局「測機舎は株式会社に脱し去ったのではなく、その後20年近くの間生産協同組合の要素を色濃く残した株
式会社として存続し続けたのであった」と評価している。

WCOの戦後の代表例として著者が例示するのが、復興期の生産合作者である。生産合作者は「敗戦に伴う膨大な失業者らの生産復興の活動のなかから」
少時、「1948年夏ごろまでに全国に」広がり350社以上が結成されたと考えられる。その背後には、1945年10月に設立された再建合作社必成会なる
連絡団体があり、この中間団体は、後に有馬頼寧や渋沢敬三の資金援助により日本生産合作社に発展した。

当時設立された合作社は農産加工品を扱う事業が多く、工業製品は余り扱われなかった。著者によれば、これは各合作社の開業資金(現物)制約による。
また、合作社の性格として、工場再会時の生産協同組合化や農村工業化のためはもちろん、「引揚者の更生」や「戦争未亡人の授産事業」としての役割があった
ことには注意を要するであろう。合作社の組織原則については、日本生産合作社協会が「合作社四原則」を策定しており、多くの場合これがそのまま踏襲された
ようである。さらに有限会社や株式会社の組織を用い、法人格を取得する場合の定款を協会が定めている(本書は合作社の定款など貴重な資料を掲載しているの
で、興味がある方は手にとっていただきたい)。このとき問題となるのが、出資またはステークの平等原則と脱退時の払い戻し、非組合員と組合員の扱いなどで
あるが、結論としては、合作社協会が作成した定款ではこれらの問題点をうまく解決できなかったようである。

結局、合作社の設立運営は「1948年の夏ごろから運動は全国的に渋滞し、やがて単位合作社の倒産につながって」いき、「日本生産合作社協会も、ま
る3年でその活動を停止」した。その原因として著者が指摘しているのは、まず「合作社の会社形態の擬制による企業形態の不完全性と、社員の協同経験の決定
的不足」である。測機舎と異なり、非熟練労働力が大きな割合を占めたことからそもそも技術水準に問題があったことや、協同組合の平等主義が事業体のなかで
ヒエラルキーの形成を阻害したことなど、効率的な事業運営に支障をきたしたようである。また、日本生産合作社協会が個別合作社に適切な支援を行なえなかっ
たことや、激しいインフレと傾斜生産方式による原料、資金不足の合作社の早期瓦解の要因となったと著者は主張する。

しかし、合作社の経験は、その後に続いた企業組合制度に吸収されたと著者はみている。そもそも戦時統制に主要な役割を担った商工組合は戦後解体さ
れ、それにかわって1949年に中小企業等協同組合法が成立した。企業組合はその一類型として位置づけられ、「生産合作社協会の合作社四原則を踏襲するな
ど生産合作社の考え方を色濃く踏襲したものと」なった。具体的な制約として、「協同組合原則に基づく企業である」ことや、「組合員の三分の二以上は、組合
の事業に従事しなければならない」ことなどが要求されたからである。なかでも、労働者などの個人であって、事業者以外によって設立された企業組合を著者は
「労働者企業組合」と呼び、「活動している労働者企業組合は2003年3月末現在で450社と推定できる」。とりわけ「事業者企業組合の70.7%が昭和
40年以前に設立されたものであるのに対して、労働者企業組合では27.7%、平成以降に設立されたものが事業者企業組合では5.4%であるのに対して、
労働者企業組合は20.1%に達しており」、労働者企業組合がとくに近年活発に設立されていることを指摘している。

その近年活発に設立されている労働者企業組合は、組合員数10名以下が44.8%を占めるなど小規模事業が多く、「建設業から卸小売業、サービス業
まで産業構造のすべての部門にわたって組織されて」いる一方で、67.8%の組合が黒字を計上しており「一般の小規模企業の状態よりも業績は悪くな
い」(1996年)。総じて言えば「自営業を営んだ経験の無い労働者その他のひとびとが協同して仕事を開始しようとするときに、比較的に適合し易い組織形
態として」選択されたことを示している。

本書は以下、創業や高齢化、サービス産業化と関連させて若干考察したあと、23例のWCOを紹介している。

以上のように、本書はWCOの主に歴史的な経緯を参考にしながら、産業発展の各局面で、労働者が中心となった協同組合形式の組織体が重要であったこ
とを繰り返し紹介しており、現代経済を考察するうえでヒントになることがあるだろう。確かに、著者がところどころに強調する労働運動とWCOとの関係をど
う整理するかは読者それぞれの立場があるだろうが、社会組織としてのWCOの存在は無視すべきではない。とりわけ近年では就業構造の多様化や地域社会の必
要性からNPOの組織が多く設立されているが、協同組合的仕組みをもつWCOもその一翼を担っており、高齢者の活躍の場として期待されてもいる。測機舎の
成功と合作社の失敗を見比べればすべてのWCOが十分に機能するとは限らないことが示唆されるだろう。実際、1996年時店で前述の労働者企業組合の組合
員平均年齢は52.3歳であるのに対して、平均月収は20.3万円に過ぎない。このことはボランティアに頼っている可能性を示しており、WCOの活動の難
しさが垣間見える。WCOの歴史的経緯を見直すことは、これらNPOの組織が合理的に存続できる条件を吟味し、適切な政策提言を行なううえでも有用だとい
える。

バブル期以降、「フリーター」や「フリーエージェント」として繰り返し語られてきた「自分が自分のボスになる」職業人生であるが、具体的な支援策や
実情についてはそれほど重要視されてこなかったきらいがある。このような政策を考えるとき歴史的な経験を思い出すことは無駄ではなく、本書はとても参考に
なる書物である。

神林龍(一橋大学経済研究所助教授)

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